Sさんのお住まいリフォーム記録

NO.2

 

 いよいよ久米さんの事務所での本格的な打ち合わせが始まり、私には家族代表として皆の意見をまとめるという仕事が待っていました。

五人それぞれが、今度こそはという熱い気持ちを持っていましたし、主人はビバリーヒルズスタイルのような、ゴージャス傾向も捨てきれていないことが分かり、困りました。

私は憧れだったB&Bのチャールズが似合う、スタイリッシュでモダンな空間を実現したかったのですが、家族で話を煮詰めるほどに、色々なイメージが渦巻いて混乱するばかりでした。

 しまいには、自分たちには何が必要で何が欲しいのか、分からなくなっていったのですが、打ち合わせを重ねるうちに肩の力が抜けていったように思います。

久米さんは本当に根気強く、ころころ変わる私たちの希望を取り入れ、また的確なアドバイスをくださり、犬たちの存在を忘れがちな私に、最後まで真剣にペットの健康と安全を考えた提案をしてくださいました。犬の足腰のためにと、久米さん一押しのコルクタイルは、今では人間の方がお気に入りです。

 老大型犬の歩幅に合わせた階段など、細部にわたって久米さんの思いやりがたくさん詰まった、人にも犬にも優しい設計になりました。

 

 工事が始まりスケルトンの状態に解体され、毎日があわただしく過ぎて行きました。

家に住みながらのリフォームだったので、工務店さんは大変だったと思います。当初の予定よりは大幅に工期は伸びてしまったのですが、最後の最後まで誠実に対処していただきました。

 時には職人さんを注意する、久米さんの声が聞こえ、(そこまで…)と思うほど納得されるまで何度でもやり直しをしてくださいました。

娘が、「久米さんは、これだけ心を込めてお家を作ったら、引渡しのとき寂しいでしょうに」と言ったことがあります。私たちといえば皆さんの苦労をよそに、毎晩無人になった現場で、懐中電灯を片手に夢ふくらませていたのでした。

 

 そして何より、今回は工務店さんにも恵まれたと思います。このD工務店のHさんこそ、小柄でも大きな存在感のある、正真正銘のマイスターでした。無口で無愛想な方なのですが、労を惜しまず最善を尽くす、Hさんの仕事ぶりには感動すらおぼえました。

そのうえに、久米さんのチェックとダメ出しですから、鬼に金棒とはまさにこの事だと思いました。

 

 

 

4.リフォームを終えて

 

 窓からの空間の広がりと一体化したキッチンとリビングは、実際の広さよりも大きく感じられます。

 ここで一日の大半を過ごしていると、少々のことは「まぁ、いいか」と大らかな気持ちになるから不思議です。 突然のお客様も「本当にここで暮らしているの?」と驚かれます。

 美しさに機能性が備わっていて、はじめてそれを維持できると実感しています。

 お客様は、昼間のワイドビューの開放感と、夜のライトの下での緊張感で、昼夜二度楽しめる空間とおっしゃってくださいます。

 来客好きの犬たちが、キッチンとリビングの仕切りのガラス戸に鼻をつけて覗くのが、歓迎のご挨拶になっています。

 我が家に来た当初は、手がつけられないほどヤンチャで、手放すことも考えたK太も、この環境のせいか、人間大好きのんびり犬に変わりました。 何より嬉しいのは、ワンちゃん好きはもちろんの事、今まで犬を倦厭されていた方までもが「こうして、飼ってみたい」と言ってくださることです。

 この家は「ペットは家族の一員だから大切に」という説得力とメッセージを感じるとおっしゃった方もいました。それは私たちではなく、ツバメの親子や生き物すべてに優しいまなざしを注ぐ、久米さんからのメッセージだと思います。

 「季節の移り変わりを楽しみ、ペットと暮らす家」皆様のおかげで、手に入れることができました。

 

(竣工写真はこちら)

 

久米から一言…

 

工期がまた伸びてしまいました。

今回は、お住まいになりながらだったので、本当にご迷惑をおかけしてしまったと思います。でも、犬を好いていなかった方にまでお褒めいただいたとは、知りませんでした。

本当に嬉しい限りです。

 

今回、キッチンをワンちゃんたちの居場所とするため、キッチン周辺のあちこちにワンちゃんたちのためのしつらえをしました。けれども、住まいはあくまでも人が主体のものであってほしいと考え、犬のための部分は可能な限り目立たないように、慎重にデザインしたつもりです。

  

また、換気と消臭作用のある左官壁、適度な摩擦のあるコルクの肌合いのおかげで、ワンちゃんたちの臭いもまったく無く、抜け毛も飛び散らず、犬が居るとは感じられない部屋となりました。

    

それにしても、S子さまのお宅は本当に美しく維持されています。

いつお伺いしても整然と竣工写真のままで、そのお住まいへのご家族皆様の愛情は本当にすばらしいと思うとともに、設計したものとして、深く感謝申し上げます。

 

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

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