Y子さんのお住まい リフォーム記録

●家つくり日記(2)

 

<家をイメージする>

 初めて電話でお話ししてからお会いするまで1か月ほど経ちました。

 何年も家について悩んでいた私には、それ程長い時間ではありませんでした。

 まずは見ていただく実家に久米先生と構造計算をされる瀧川様がいらっしゃいました。

 実家は鉄骨3階建てで部屋数にすると10部屋、それに2つのバスルーム、すべてを天井裏まで細かく検査していただきました。

 私には何を話しているのかよくわからなかったのですが、お二人とも真剣でした。私はきっと久米先生の頭の中でいろんな想像されているのではないかと期待していました。

 1階から順番に部屋を見ていき、最後に3階の天井裏を見ていただいた時、今まで明るく話されていた久米先生の顔が曇りました。

     「もしかしたらこれ、アスベストかもしれませんよ。」

 はい?それって、いいことですか、それとも悪いことですか?先生のお顔を見ると、それがとても悪いことだと容易に理解できました。

 知識不足の私は、アスベストを除去することが必要になることはわかりましたが、実際に除去するには、宇宙服のようなものを着て専門の業者が完全に密封して作業することになり、とても処理にお金がかかることを後で知るのです。


<初めの第一歩>

 改修にするにしても建て替えにするとしてもアスベストであるかどうかの判断が必要となりました。

 久米先生のご紹介で業者さんに、アスベストらしきもののサンプルを取っていただき分析にかけました。

 分析の結果を待っている間に、久米先生から構造計算の瀧川様との報告をいただきました。とても誠意ある文章で建て替えした場合、改修した場合のメリット、デメリット、そして今の建物の状態を教えていただきました。建て替えにすると強度は高くなるが予算としては、今ある73坪を大きく下回ることになり、快適な2世帯にするには難しいと判断し、改修に決めたのでした。

 またこれで一歩進みました。

 

 そうこうしている間にアスベストの結果がでました。天井裏に吹き付けてあった物体は、アスベストではありませんでした。

 

 さあ、改修に向けて久米先生との初めての打ち合わせに入ります。

 何年も家について夢を描いていた私たちは、先生に話す要望は膨大になっていました。

 主人、子供たち、実家の母、私全員で久米先生の事務所にお邪魔しました。

 3時間ほどかけて全員の要望をすべて真剣に聞き取っていただきました。

 そこで何年も漠然と考えていたことが、久米先生の知恵と知識によって、まとまっていきました。

 

私たちの要望と解決方法をご紹介します。

① 内玄関

 玄関はすっきりさせたいが家族の靴をはじめ、カバン、上着、鍵、ハンカチなどは収納させたいと話したところ「内玄関」を作ればいいですよ、と提案してもらいました。 

 私たちが初めて聞くその内玄関で問題は解決です。

 

② 洗濯室

 共働きの私たちにとって家事は少しでも手を抜きたい部分。家事動線について何度も

先生と話し合いました。特に洗濯は私にとって苦痛なのです。今のマンションは洗濯機から干す場所まで少しあるので、濡れて重たい洗濯物を運ぶのも苦労しました。マンションの私でさえそう思うのですから戸建てになるとさらに大変になってしまうのではないかと本当に心配でした。

 そこで、「洗濯」「干す」「たたむ」「しまう」この一連の動作をなるべく短い動線で考えていただきました。

 まず、子世帯の私たちが住む2階、3階部分の2階にファミリークローゼットを置く、同階に洗濯室を設ける。3階にお風呂を設置し、脱衣所からシューターで洗濯室に落とす、それを洗って洗濯室に干す。部屋干しですが「干し姫様」という電動物干しを取り付けることで簡単に干すことができ、大きな窓があるので乾くとのことでした。

 私は、その上にガス乾燥機「乾太くん」も採用、エアコンも入れました。

 乾いた洗濯物は造り付けの長い机で畳む。そして同階のクローゼットにしまう。

 先生の完璧な提案でした。キッチンと隣り合わせにすることも気に入っています。

 私はその洗濯室を自分の部屋として考えています。

 

③ 坪庭

 先ほどの洗濯室、玄関から入った正面に位置します。その真正面の洗濯室の壁に床か

ら50センチくらいで正方形のFIXの窓を取り付けます。洗濯室の床はタイルにし、さも「坪庭」があるかのように魅せてくれました。これは主人の念願の坪庭です。(~風ですが。)

 

④ キッチン

 家事の中で一番好きな料理。キッチンにはこだわりたいと初めから思っていました。

 いろんなショールームに行きました。国産メーカーはどれも便利で使いやすく作っていました。でも、これと言った気に入るものがありませんでした。そこで先生にヨーロッパのキッチンを取り扱っているクッキングプラザさんを紹介してもらいました。家具のようなツァイコのキッチンに一目で好きなりました。クッキングプラザの会長さんが「引っ越しするときも持っていくほど大事に使うキッチン、30年たっても大丈夫です」の一言でどうしてもほしくなったのです。いいものを大切に長く使っていくのは私のポリシーでもあります。これしかないと思いました。

 天板もクオーツにし、60㎝の食洗器も採用。職人さんが手作業でつくる木製の引き出し。こだわりのキッチンになりました。


 そのようなやり取りを約半年かけました。

 とても楽しい日々でした。

 

 家造りは縁がないと、こんなことは考えたことのない私でしたが一生懸命考えました。

 そしてここから厳しい時期がやってきます。家を建ててくれる工務店探しです。

消費税アップに伴い、駆け込みで家を建てる方が増えたことでなかなか工務店さんも見つかりませんでした。

 それでもいくつかの工務店さんに見積もりを出してもらい、先生に検討してもらいました。

 本当に厳しい日々でした。

 

 やっとご縁があり素敵な工務店さんに巡り合いました。

 そして予算と見積もり書のにらめっこです。先生と工務店の会長さん、現場監督さんが知恵を絞って私たちの家について考えてくれています。素人の私達にはどうすることもできなかったのですが、さすが建築家の久米先生、家造り専門の工務店さん、違う角度から専門の知識を出し合って素晴らしい建物になっていきます。久米先生の豊富な知識はよく理解していた私たちですが、工務店の会長さんの引き出しの多いこと。これでだめならこうする。という打開策をたくさん打ち出してくださいました。

 いくつかは断念したものがありますが、初めに出した要望は、ほぼかなったかと思います。

 そして、無事工務店さんとの契約も結び着工までたどり着きました。

 感謝です。

 

 さて、いよいよイメージした家が本当に現実になります。

 わくわくドキドキ。一生に一度の大勝負。完成が楽しみです。


(第3回へ続く)

久米から一言…

 

ほめ過ぎでおられます。。。(汗)

大変に有難いと思いながら、穴があったら入りたいくらいです(笑)


 

Y子さんは書かれてはいませんが、相当色々ご辛抱してくださいました。

 

ご要望の内容については、おっしゃるとおり、当初のご希望そのままではなくても、

工務店さんの協力を得て、形を変えながら結果的に殆どを満たす内容に落ち着いたと思います。

しかしながら、消費税アップの駆け込み需要は思ったより多く、あぶれてしまった側としては、本当に時間がかかりました。お子様の転校のご予定も早々に立てられていたので、簡単に変更されるわけにもいかず、工事も始まっていないのに転校先へ送り迎えの毎日…

どれほど、煩雑だったことかと申し訳なく思っております。

 

にもかかわらず、Y子さんご家族はいつも熱心に私の意見に耳を傾けてくださって、お陰様でいま、急ピッチで工事は進み、現場もいきいきと作業していただいています。施工業者さんと建築主さんと設計事務所、それぞれの良い信頼関係が如何に、現場に影響を与えるか、改めて痛感した現場でもあります。

 

設計が完了した時点では、改善の余地はまだ実は残っています。現場で、施工業者さんや建築主さんと、引き続き、さらに改善点はないかと考え続けることは、相当エネルギーを使うことではありますが、それができるのは、建物に対する愛情とそれぞれの立場での現場へのモチベーションの高さです。良い関係がこれを維持させてくれるのです。

 

完成が私も楽しみです。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)