家づくり記録 Aさん 「安全で住み心地の良い家が欲しい」

NO.6 「設計その2;設計が完了し、工務店と契約しました。」

2004.09.20

 

 2003年11月、基本設計が完了したので次は実施設計です。

 今度は家の細部の寸法や仕様を決めていく必要があります。ほとんどは久米さんが決めていかれるのですが、住む人が日頃使う所や固有の思い入れがある箇所は、私たちの意見が必要となります。各部屋の収納(何を、どこに、どれくらいの寸法で)について、夫婦協同で簡単な寸法入り見取り図を描きました。書斎の本棚、玄関の下駄箱・収納棚、持ち込み家具、子供部屋の収納などです。また冷房・暖房などの設備機器や建具の詳細仕様も一つ一つ決めていきました。構造家の秋山さんが行なう詳細な構造計算の進展に伴い、柱や壁の微調整もありました。こうした細部にわたる構造、仕様、寸法が決まり、久米さんは沢山の図面を仕上げられました。平面詳細図、断面詳細図(矩計図;カナバカリ図と言うらしい)、展開図(各部屋毎に部屋の中心から四方向を見た絵)、階段詳細図、建具配置図とそのリスト、各種構造図(基礎、土台、柱・壁・梁の配置、天井、軸組など)、各種設備図(電気、照明、換気、冷暖房など)、外構図が出来上がりました。これらが一冊に製本され、家の設計が出来上がったのだという実感が湧いてきました。見ているとなんとも嬉しくニコニコしてしまいます。

 

 なお今回、台所の設計と施工については、ワタナベ工芸さんに別発注となりました。久米さんは、「私の手がけた家で、既成のシステムキッチンを置くだけの台所は一つもありません。」と言われ、ワタナベ工芸さんを紹介してくださいました。ワタナベさんには、こちらの希望をお話したり今の家の台所をみてもらったり、いくつかのショールームへ連れて行っていただきました。そして、TOYOのシステムキッチン、又、サンウエーブのコーナーパントリー・カウンター収納、を採用することになりました。2つのメーカーの物を組み合わせて使い、特にサンウエーブの収納部分は台所の広さにあわせてサイズを決め、色も床と同じ色にしました。設備はガスのガラストップコンロ、オーブンレンジ、食洗機、整水器を入れました。このようにして、“世界で一つだけ”のオーダーキッチンのプランが出来上がりました。(台所の予算を約3%オーバーしましたが。)

 

 さて、次は工事業者を決める入札です。2~3の知っている工務店はありましたが、力量や特徴は良く分からなかったし、結局、久米さんの推薦される、D社,N社、I社、S社の4社相見積もりを実施することになりました。

 2月6日、現場説明ということで久米さんに同行させていただきました。宝塚ホテルの喫茶店で1社ずつ会い、挨拶の後、久米さんから設計内容・見積もり条件の説明、質疑応答、現場の下見を、4社繰り返すのです。私はもっぱら会話のやりとりを聞きながら、工務店の人を観察するだけで1日が終わりました。工務店が見積もりの作成に入っている間の2月中旬、4社の今請け負っている現場や完成した家を、それぞれ見学して周ることになりました。その中で神戸・御影の家はとてもすばらしく、工務店の人に費用を聞くと我が予算の2倍位ということで思わずタメ息が出ました。2月24日、4社から見積もりが上がりましたが、予算と開きがあったので、予定していたいくつかのプランを減らすことにしました。

 例えば、トップライトを2ケから1ケに、台所と食事室の間仕切りの扉を無しにしてカーテンに、板塀の塗装を私たちでやることにしたり、などです。このような減額案を提示しての再見積もりでS社が1位となり、3月13日発注先がS社に決定しました。

 S社は木材の流通ルートを独自に持ち、木の品質にこだわりを持つ会社です。無垢の木をできるだけ使うといった、私たちの希望に沿った会社に決まったことは幸運だったと思っています。

 工務店を選定することは素人の施主にとって難しい問題で、設計事務所にお願いした理由はそこにもあります。見積もりはフタを開けてみるまでは分からず、金額が拮抗した場合はその選定の判断は非常に難しいと感じました。

 3月24日、S社と工事契約しました。なお、鋼製建具や空調・衛生設備機器は、S社の取引先であるIS社(*)に別途発注し、また暖房用のパネルヒーターの機器及び設置工事は、ピーエス工業社に別途発注しました。

 これで工事の準備はすべて整いました。いよいよ4月から工事が始まります。これから何が起こるか分かりませんが、無事10月末に工事が竣工することを祈るばかりです。家づくり計画も山登りで言えば7合目、これから頂上まで胸突き八丁の登りが続きます。

 

久米から一言… (というか今回は二言も三言も…)


工務店選定は厳密に言うと、「相見積り」です。

「入札」と「相見積り」の違いは、前者は判定基準が基本的に金額だけの一発勝負、後者は、金額以外の要素も加味し、条件を変更するなどして何回か見積りしなおしたりすることもあるやり方を言います。また見積りのときに見るべきことは、金額だけではなく、設計に関して提出される質疑の内容、見積書の明細、数量の拾い方、また、これまでてがけた建物の様子、見積書提出までの各社の対応、設計図への理解度等々…全体に渡って様子を見ます。

いままで付き合いのある工務店さんも居れば、新しく紹介してもらった工務店さんも居ます。

 

今回、Aさんの場合に別途発注となった部分は、暖房器具と厨房設備です。

住宅の設備の中で、内容を決めてしまうまでに何度も検討し、数度に渡って見積りを提出して貰う必要のある部分は、キッチンと冷暖房設備である場合が多いと考えています。

そこで、建築設計工場 西宮事務所では、基本的には、工務店選定以前、数ヶ月前から、厨房設備と冷暖房設備については施主さんとの打合せを先行します。

キッチンはメーカーが決まっても細かい内容を決めながら常に見積りを参照していきますし、建物との取り合い部分、またその施主さんなりのご要望には既製品だけでは対応できない部分がどうしても出てくるので、それらの調整をしながら、かなり早くから打合せを始め、工務店さんが決まるまでにはほぼ、厨房設備の内容も決まっている、という状態にもっていきます。 (ショールームには私も同行します。 楽しいんです、これが♪)

今回はたまたまワタナベ工芸さんが適当と判断しましたが、厨房設備の会社も色々候補を検討します。

 

冷暖房設備について先行検討するのは、最近の冷暖房設備による多様さが理由です。

基本設計の時に大方の方針は決め(その冷暖房設備によって建物の設計も変わっていきますので。)実施設計とともに、冷暖房設備の詳細な検討を各業者さんに何度か見積りを出して貰いながら進めます。

 

Aさんの場合は、初めからパネルヒーティングのご希望でした。

A邸の場合、断熱をしっかり入れて気密も確保しているため、PS工業さんにランニングコストを試算してもらうと、24時間連続家中全室運転で、年間の暖房費が5万円程度、という驚きの結果!(注>熱源によって変わります。)

この冬が本当に楽しみです。

 

昨今、別途発注についてはコスト削減のイメージだけで語られますが、私自身は、コスト削減よりも、施主さんのご要望に細かく対応しなくてはいけない部分を別途としているつもりです。さらに、建築工事に複雑に絡み合うものについては、別途発注はお勧めできません。

キッチンは建築の最後にほぼ置くだけ、暖房も、あるひとつの工程に拘わるだけ、なので、別途としやすいと判断しています。別途発注はその内容によって色々と問題もあるため、安易に取り入れるのは考え物だと思っています。

(建築設計工場 西宮事務所は、第三者監理の立場を貫くため、オープンネットシステムには参加していません。)

 

それから、

文中の「S社の取引先のIS社に別途発注」というのは、以前少しこの欄(K子さんの家つくり記録)でお話した、「THINK NET」というシステムを利用したということです。

建材の一部の材料の、商社からの直接支給ですが、通常の工事と同じ進み方で進みますので、すべて工務店さんに請け負っていただいている場合と何も実情は変わりません。

 

請負をしていただくことになったS社さんは、良質な国産木材での建築に熱心な社長の会社。 S社さんに決まってよかったと私も思っています。

 

(また大変に長いコメントになってしまいました)

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

 GeekanNZ のウエブサイトはこちら

 

- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)