家づくり記録 Aさん 「安全で住み心地の良い家が欲しい」

NO.8 「引越し、竣工、終想」

2004.12.14

 

 10月に入り現場の追い込みに拍車がかかるのと同時に、私たちの引越し準備も忙しくなって来ました。9年前の阪神淡路大震災で大分整理を余儀なくさせられたものの、30年住んだ月日は大量のモノを貯蔵させていました。新居に持ち込み以外の家具は不要になり、それらを解体して庭の片隅に積み上げました。その量はかなりのもので隣地との境界ブロック塀が傾くのではと心配した程です。タンス、本棚、机、食器棚、布団、雑誌、食器、自転車、等の粗大ゴミは市のクリーンセンターへ持ち込んだものだけで800キログラム、市のごみ回収に出したものを加えると1000キログラム近くになったでしょうか。


  引越し業者が持ってきたダンボール箱への梱包が合計150箱位になりました。来る日も来る日も整理の連続、良くぞ引越しは1回で済んで良かったと後で思ったものです。

1028日、外構工事を除く工事が完成し建物本体の引渡しを受けました。前日夜まで突貫工事が行われ、やっと滑り込みセーフです。まだ床の塗装が充分乾いていなくて塗料の匂いが残る中で、鍵受け取り、設備の取り扱いの説明を聞きましたが、全部頭に入るはずもありません。終わるとすぐ旧居に取って返し、30年近所でお世話になった方々に引越しの挨拶をしました。

    

 翌1029日、引越し日到来。天候晴れ。8時に業者が来て2トン貨物車3台、係員6人(内女性1名)が集結しました。打ち合わせの後、搬出開始。その手際の良いこと、毎日引越し作業をやっているだけのことはあるなと感心することしきり、階段など走って昇り降りしています。午後、新居にすべてを運び込んで引越しは無事完了しました。夕方、今度は新居の近所の家々に挨拶まわり、ヤレヤレこれで一段落、忙しい一日でした。

 ところで3日後には買主に旧居を明け渡さなければなりません。30日と31日の2日間は旧居の大清掃です。他人様が住むとなれば「発つ鳥、跡を濁さず」の諺どおり、隅々まで30年間一度もしたことの無い部分まで丹念に掃除しました。31日夕方、清掃が終わり旧居とサヨナラする時が来ました。電気のブレーカーを落として鍵をかけて外へ出ました。振り返り、30年住んだ家だがもう二度と来ることはあるまいと思うと若干の感傷が湧いてきました。

   

 111日、晴れて新居での生活が本格的に始まりました。まずやるべきは住所変更手続きです。市役所(転入届け)、警察(運転免許証)、銀行(口座開設)、電気、ガス、水道、電話、生命保険、損害保険、健康保険、墓地、社会保険事務所、郵便局(転送届け)、車のディーラー、などなど。これらの手続きに1週間を要しました。それから、カーテンの注文、インターネットの設定、ケーブルテレビの工事、必要備品の購入など、やっと落ち着いたのは入居後1ヶ月のことでした。

 その間にも工務店の外構工事は進んでいますが、なかなか終わりません。郵便受け、門灯、インターホン、駐車場などは早く造って欲しいのですが・・・。約束の1120日を17日もオーバーした12月5日にすべての作業がやっと完了し、工事は遂に竣工しました。45日に安全祈願祭を挙行して着工して以来、実に8ヶ月を要したこととなります。今思えばアッという間の出来事だったという感じもしました。

 

     

 次に、新居で1ヶ月間生活した感想を紹介させていただきます。

     

 まず、室内の空気の良さを感じました。24時間換気をしているせいなのか、又ふんだんに使った木や薩摩中霧島壁の調湿効果もあるのか分かりませんが、ともかくすっきりしていて気持ちが良いです。

 ほのぼのとした暖かさでとても心地良いです。11月下旬頃で朝の最低気温は10℃位ですが、室内は17℃もあります。一日の室内の最低と最高の温度差は1~2℃で温度変化が小さくなっています。これは家の断熱性を高く設計した効果が現れているのです。ウール断熱材の厚み、木材の保温効果、ペアガラス、断熱サッシ、隙間を作らない丁寧な施工などがその要因です。今回導入した温水パネルヒーターは室温が15℃以下に下がったら運転しようと考えていますが、なかなかそこまで温度が下がりません。

木に囲まれているという安らぎを感じます。ヒノキの柱、杉の無垢板の床や天井、米松の梁は現わしとなっていて、それらのソフトな感触が微かな木の匂いと共に心地よく感じさせるのかも知れません。

 室内空間は広がりがあって、伸びやかな開放感があります。これはもう久米さんの空間設計の効果によるものです。「百聞は一見に如かず」で写真がないのが残念ですが、一階は大きな建具を引くと居間、和室、ホール(廊下)、食事室が一体的に使用できます。廊下の巾は広めで階段の傾斜は緩めです。二階の廊下はスノコ状で一階が透けて見えて、階が仕切られているという感じは薄いのです。上を見上げると、屋根天井の傾斜や太い梁が現わしとなっていて独特の開放感を与えています。これらの一見無駄に思える空間の取り方が良い心理的効果をもたらすものだということを実感しました。

     

 外観はシンプルで落ち着きがあります。3分勾配の切妻屋根がどっしりとした安定感を与えています。これに乳白色の外壁とパイン色に統一された木部塗装(バルコニー、駐車場、外柵など)が効果的な彩りを添えています。ご近所の人はいい感じのデザインと色あいですねと褒めてくれますが、あながちお世辞だけではないと思える出来栄えです。

以上が全体の印象ですが、次に個々の間取りの結果についての印象をご紹介します。

     

 居間は8畳ほどでピアノ、テレビ、ソファを置いていますが、それ自体は決して広くありません。しかし、ホール(廊下)と一体的に使用すると12畳ほどになり、大勢のお客様が来てもなんとか対応できると思います。

 食事室は有効5畳ほどであり、家族4人がテーブルを囲んでの団欒に適度な広さです。そして朝日が射し込むのがなにより良いです。

和室は3畳間で小さいながらも床の間をしつらえてあります。少人数ならお茶の会も催すことができます。

 厨房は5畳ほどでシステムキッチン、コーナーパントリー、キッチンカウンター、冷蔵庫がありますが、このコーナーパントリー(食品収納庫)はコーナー部を有効に活用でき、なによりも収納力が抜群です。家内は心配していた収納がうまくいき、動線も短くなって楽になったと喜んでいます。

 

 さて私の書斎ですが、3畳ほどのスペースに造作家具(本棚、引き出し)、デスク、クローゼットがあり、決して広くはありませんが、逆に手を伸ばせばすぐものが取れるので大変便利です。私の城ではありますが、ここにはパソコンとプリンターを置いているため、時々家族が入ってきてメールやインターネットをやっています。

 浴室は何といってもお風呂の庭があるのがユニークです。湯船に入って外を見ると、湯気で曇ったガラス窓越しにぼんやりと庭園灯の光が見えます。湯に漬かっているとリラックスしすぎて眠たくなるほどです。

     

 音の問題ですが、当初心配していた屋根の雨音はさほどでもなく気になりません。しかし、屋内の音は家中によく届きます。早朝にラジオやテレビをつける時は建具を引くようにしています。けれども音がよく聞こえるということは家族の気配が分かり、それも又いいような気がします。

     

 以上で感想を終わりますが、ともかく可能な限りの素晴らしい家を造っていただきました。これは私たちにとって無上の喜びです。この家を家族みんなで楽しんでいきたいと思います。また、定期的な点検を自分達で行い、いつも家が最高の性能を発揮できるようメンテナンスをしていくことも重要だと思います。防犯上の対策については現状で満足せず、日々進化する泥棒の手口に負けないよう手を打っていくつもりです。

      

 

 4年に亘る私たちの家づくりプロジェクトはこれで無事終了しました。多くの関係者の方々のご尽力のお陰で、表題にある「安全で住み心地の良い家」が出来上がりました。皆様、本当に有難うございました。

 以上で家づくり日記の連載を終了させていただきます。最後に、この場を提供してくださった久米さん、拙い文章を我慢して読んでいただいた方に厚くお礼を申し上げます。

 

(竣工写真はこちら)

 

久米から一言… 

 

Aさんには新しいお住まいをとても気に入っていただいたようで、嬉しいです。

施工をしてくれた、(株)木の巣の皆さん方も、嬉しいでしょう。

 

竣工してからも何度もお訪ねしていますが、玄関を入ると感じる木のほのかな香りとほんわかとした暖かい室内は、設計した本人とはいえ、羨ましい限りです。

薩摩中霧島壁のイオン効果もあって、室内空気はすっきりとした、森の中の空気のようです。

 

また、室内の一日の温度差が1~2度というのを伺うと、Aさんが書かれているように断熱効果がしっかり現れているように思います。

今年の冬は暖かいですが、それでも寒い日が時折混じっている中で、未だにパネルヒーターを運転されていない(早朝にエアコンを一時運転されるだけだそうです。)ということです。

 

室温が16,17度と聞くと、少し肌寒いのではと考えられる方もおられるかと思います。

けれども、人の体感温度というのは、単に気温だけでなく、部屋の仕上げ材の輻射が大いに関係しています。コンクリートのように体から熱を奪う素材で囲まれている部屋は、16度では確かに寒いことでしょうが、木造住宅で、このように木材を現しにしている建物では、

木材が体の熱を吸い込まずに反射するように働くので、同じ温度でも寒いとは感じないものです。

さらに、壁や床の中にはウールが一杯詰まっているのですから、お布団の中にいるようなぬくぬくした感じがありますね。(ウールは調湿機能やホルムアルデヒドなどの吸着機能もあります。 (ですから、例えば、昨今人気のフローリングばかりでなく、ウールカーペットも良い床仕上げ材の一つなのです。)

 

でも、早くパネルヒータを運転して効き目を味わってみていただきたいとも思うのですが…

これから、冷え込んで行く冬を楽しみにしています。

 

Aさん、長い間、ご投稿いただき、本当に有り難うございました。心より感謝申し上げます。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)