Kさんの家作り記録

NO.10

 

 実は、キッチンのどんでん返しが落ち着いて3階の床騒動が起こる前に、ちょっと北京へ遊びに行ってきました。マイレージを年内に消化しないと権利消滅ということでいそいそと出掛けたのです。その間何かあれば全権委任ですので、どうぞどうぞ宜しくと久米さんにお願いして行きました。お土産は中国茶でお茶を濁しましたが(久米さんはお茶好き)、ま、熱心なようで熱心でない施主だったわけです。しかし、こんな施主で、しかも、かなりトラブル続きの家造りだったにもかかわらず、ちゃんと出来上がり、今はとても気持ち良く住んでいますから、最初に信頼できる建築士さんをちゃんと選んでおけば後は何とかなる、ということでしょう。(久米さん、本当にお世話様でした。)


 それにしてもトラブルはその後も続きました。まず、風呂好きなので風呂場にはかなり力を入れたのですが、浴槽の位置を間違えていたため頭を乗せる部分と壁の間の空間が殆どないことが判明し、既にセメントで固めてあった浴槽周りを壊して十分な空間を作ってもらいました。

 

 久米さんにデザインしてもらった玄関ドアは、製作を間違えドアがゆらゆらしていたので作り直しになり、それがまた手間取り、完成は入居後1ヵ月半以上たってからでした。また、引越し4日前に、2階のエアコンの冷媒管不具合が発覚して西壁に穴を開けて新たに冷媒管を設置することになったこともありました。他にも小さいトラブルはいくつかありましたが、この冷媒管の件は特に残念でした。西側の壁は配管なしでスッキリしていたのに穴を開けることになり、雨仕舞の心配もあったし、デザイン上の残念さもあったし。これは、全てをデザインした久米さんが一番悔しく思ったことでしょう。主人は引越しを延期してでも既に配管したものを取り替える方を選びたいと言いましたが、私は5日後に控えた引越しをさらに延期することなどとんでもないと思い、壁に穴を開ける方を主張しました。是非は今後問われることでしょう。

 

 また、引越し1週間前には建築審査機関の完了検査があり、書類提出時には承認していたはずなのに、現場を見てベランダの手すりと吹き抜けの手すりで間隔が開きすぎていて危険だ、認められないと検査員が言い出しました。「こんなの怖くて危ないでしょ」と言うのです。ここに住む人間がこれでいいと言っているのに要らぬお世話だ、とだんだんむかっ腹が立ってきて、立ち会っていた私の目つきが見る見る険しくなったのでしょう、久米さんに目配せされて(ぐっとこらえて)何も言わずその場を立ち去りました。

 施主はそれで済みましたが、久米さんはその前後、何度も議論した末になんとか審査機関にこちらの主張を理解してもらい、無事、完了検査済証をもらえたのでした。ほんとうに最後まで気が抜けませんでした。

 

 10月下旬にやっと新居に引っ越した後も手直し工事が週末に続き、私は仕事に追われて荷物の後片付けも遅々として進まずという状況でした。


 追加工事ということがどこの現場でも必ずあるものだと思います。うちでもいろいろありました。「気軽に現場の大工さんや職人さんにあれこれ頼まないように」と何かで読んでいましたので、かなり気を使ったつもりです。が、だんだん家が出来上がってくると現場であれもこれもとつい言いたくなる誘惑は非常に大きいものです。少しでもいいものを作ろうという点では施主側と建築会社側の意向は多分一致しているでしょう。「ここはこうしたいけれど、いくらぐらいかかるかしら?」「いやぁ、そんなにたいしたことないですよ」「そうおう? じゃあお願いしようかしら」と話が展開してしまうと後で追加工事の請求書を見て目が点になってしまいます。仲良くなった現場監督に対しても心を鬼にして「見積が出ないうちは頼めないから早く見積を連絡して。」ときっぱり言い切ることは、後でもめないために必要だと思います。悪口を言うつもりではありませんが、ここらへんの建築業界のいけいけ主義というか概算主義というか、とにかくやってしまえばあとで払ってもらえる、というやり方は今後の改善が強く望まれる点です。

 我家の場合は、久米さんが、費用が発生するものは必ずうちに確認を取ってくれましたし、施工会社のいけいけ主義に対しては断固闘ってくれましたので本当に安心できました。

 

 引っ越してからも、半年近く荷物が片付かずにあちこちに見苦しく出しっぱなしのままでした。そんな中でも、大きな吹き抜けの眺めをいろいろな角度から楽しんだり、予想外の所に夕方できる日影の面白さにうれしくなったり、とこれまで夢としていたことを少しずつ現実に味わいながら暮らし始めました。


 総括すると、決断と妥協、苦悩と喜びが満載の家造りでした。選択の難しさ、そして、いろいろな見方の中でバランスをとることのむずかしさを改めて学んだ我家の一大事業でした。引越しした直後はもうこんなことは一度で十分。早く落ち着いて家の中を今度はきれいに飾って、と考えていましたが、少し疲れが癒えてくると、宝くじでも当たればまた久米さんと別荘でも建てたいものだ、なんて思います。気に入った家で暮らす喜びは本当に大きいものです。これからは維持管理に気を配りながら、気持ちのいい空間を楽しんでいこうと思います。

 

(竣工写真はこちら)

 

久米から一言… 

 

現場では、工務店に施工図をおこしてもらいながら打合せを進め、きちんと内容を承認してから施工してもらうのですが、どういうわけか、それでも間違いが起きてしまいました…

竣工間近の手直しは速やかに、が原則です。

 

エアコンの冷媒管については、そもそも管自体が不良品だったようです。

 

審査機関の完了検査では、確認申請書の提出時に審査した人とは別の人が来ることが多く、その検査員と審査の担当者との見解の違い等で、申請時に図面の補足説明をして了解を得ていたにもかかわらず、手直し工事を要求されました。

幸い、その審査時の経過を詳細に説明するなどして、そのままの状態で検査済書を受け取ることができましたが、現実にはこういうことはままあることのようです。(しかし困ったものです) 確認申請書を審査した人が検査してくれるのが、一番効率も良いのですが…

(手摺子の間隔は今は開いていますが、将来ロープやワイヤーを通したりできるように、

初めからちゃんと穴を開けてありますから、皆さんご安心を)

     

K子さまがお話されているように、竣工後はいつ伺っても家を綺麗に磨いておられるので、私もとても嬉しいです。一年後には、「一年点検」に工務店さんと一緒にうかがう予定です。

10回にわたる家造り記録連載、K子さま、本当に有難うございました!

 

その後のコメント) 最近はこういうトラブルも少なくなりました。工事以来前の検討を十分にすることが大切です。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)