Kさんの家作り記録

NO.4

 

 プラン作成と同時に施工会社の決定も進めていくことになりました。久米さんはこれまで合い見積ばかり手がけてこられたという話でしたが、主人の知人に紹介してもらった施工会社に特命発注ということにすると、おそらくその会社は張り切るだろうし、また概算見積比較検討の手間がない分、設計監理料も勉強していただけるということになりました。まずは久米さんと主人と私の3人とK建設の営業のM氏とで、これまでこのK建設が手がけた近所の物件を見て回りました。残念ながら近くに施工現場がなく完成物件しか見ることが出来なかったのですが、いくつかの家を見学しつつ、久米さんが、「絶対勝てますよ」なんて言いながら、にっこり笑ったのがおかしく嬉しかったです。

 敷地が狭小でも、住んでみたいすてきな家だと感じることができるものを目指しているわけですから、設計士さんがこうきっぱり自信に満ちて断言してくれるということは、施主としてほんとうにうれしいものです。

 

 耐震のためと、外壁以外には壁や柱のない大空間を2階で実現するために重量鉄骨を採用し、そのために久米さんと構造設計家の下山さんがチームを組みました。重量鉄骨でも目障りな柱の出っ張りがなく、高さ制限10メートルの3階建てでも天井の梁が見苦しくないように等、目標の高いこの建物の設計は、余裕のない厳しいものになる見込みという話でした。3階天井の梁についてもいろいろと詳しく久米さんに説明してもらいました。それなのに、今振り返るとどうも思い出せません。我ながら恥ずかしいやら呆れるやら。主人は理解していたのが救いです。


 我家も御多聞に洩れず、予算は厳しい中で夢いっぱいというパターンでしたから、まずは特命でK建設に概算見積をお願いするものの、一方で建材のみをより安く入手できる方法を探ってみることになりました。これまでの材料と工賃を明確に分けずに見積もる施工会社のやり方を変えていこうという動きもあるようで、そうしたところが資材だけ安く提供するという話もありましたし、その他にもネット経由で建材・部材購入の道は多様化してきているようです。

 プランを煮詰めていくと当然、防犯のこと、防音のこと、屋根等様々な個所の部材のこと、ガラスのこと、将来の可能性に備えたエレベーター用基礎のこと、性能表示制度のこと等等、本当に次から次へと考えること、決めることが湧いてきます。この間に私が仕事で3週間ほど出張したこともあり、メール・FAXをフル活用し、週末には重たいカタログやら部材見本やらを持って久米さんに家まで来ていただきということを繰り返しつつ、少しずつ、迷いながらも様々なことを決めていきました。

 同時に、建物の確認申請の件で、バルコニーの建築面積の取り扱いについて見解の相違がかなりあったということで、久米さんと市役所の建築審査課が、かなりのバトルを展開したらしく、事の次第をあとで久米さんから聞いた時は、顔では「大変でしたね」と眉を曇らせたものの、心の中では、その時の、市役所カウンターの様子を思い浮かべつつ、きっとすごかったんだろうなと密かに感心していました。

 

 

 夢とため息と決断に迷ううめきの中で事はなんとか前に進み、年内に最初の概算見積をK建設から出してもらうところまで来ました。最初の建築費目標は2500万円だったのですが、これは最初の打ち合わせの時、久米さんに、3階建てでこの予算では無理でしょうと言われていましたので、2650万円という数字が出てきて、まずまずかなという感じを抱きました。でも、キッチンと床暖房がここに入っていませんし、予算オーバーに変わりはありません。これ以降、コスト削減のためにあれこれ頭を捻り、諦めるべきは諦めるという、苦しくもやや楽しい作業が始まりました。年も明け、さあいよいよキッチンのことを決めようとショールーム周りをはじめた頃、家造りを一時中断!という騒動が持ち上がりました。

 

久米から一言… 

 

今振り返ると自分の発言はすっかり忘れています。(笑)

 

下山聡氏の構造計画は一見シンプルに見えても施工難易度は高いという、練りこんだ構造計画だったと思います。その鉄骨も、工務店の頑張りのおかげで、綺麗に立ち上がりました。工務店を選択するときの、合い見積形式と特命(初めからその工務店に発注することを決めているもの)とでは、どちらが良いかはそれぞれに意見の分かれるところだと思いますので、はじめによく検討しましょう。

 

ところで、誤解のないように付け加えておきますが、K子さんの文中に出てくる「建材のみを安く入手…」というのは、よく言うオープンネットという分離発注の形式ではありません。建築設計工場 西宮事務所ではオープンネットは第三者監理のかたちを崩し、結果的に建物の質に影響を及ぼしかねないリスクがあると考え、採用しておりません。これは、ワークスワンという会社の運営する THINK NET というシステムです。(2008年現在、このシステムは無くなっています。)

このシステムを利用すると(設計事務所で個人住宅の建築の場合に限って利用可能)、工務店に対して直接材料を支給しながら、建築主の方の支払は通常の工務店への支払と殆ど変わりなく(出来高によって支払)、また、設計事務所も通常通り、第三者監理の立場で工事監理を行えるというものです。(K子さんの物件では、結果的には利用せずに終りましたが、検討は行いました。)

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

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