Kさんの家作り記録

NO.6

 

 コストダウンの作業で何をやったかといえば、主にいろいろとアイディアを出してくださったのは久米さん(最初からこうなることを予想して、設備はいいものを最初に見積に入れてグレードを下げやすい伏線を敷いてあったようですし、他にもコストダウンに備えてあれこれ考えていてくださったようです)、さらに付け加えて施工会社の営業担当者も過去の経験からコストダウンの例を出し、その一つ一つに対し、施主はまずコストダウン内容を理解し、何がどのように変化したか、想像力・知識を掻き集めて把握に努め、「別にいいよね」と思えば「それでお願いします」とお答えする、という繰り返しでした。

 久米さんとのこまごまとしたやり取りにはメールを大いに活用したのですが、そのほとんど全てをプリントアウトして備忘録として残しています。このコストダウンの時も、「チリも積もれば山」の精神で、いろいろと細々としたことを少しずつ変更していき、3,000万円から2,800万円、それから2,600万円へと予算を詰めていき、その過程がちゃんとプリントアウトされ残っています。


 こうしたことはとても大事で、その時はしっかり頭に入れたつもりのことが、すこし時が経てば、(我ながら不思議なほど)すっかり抜け落ちたり、適当に自分に都合の良いように変換して記憶していたり(弁解ですが、ま、ままあることです)、ということがけっこうありました。

 家造りは、何しろ扱う金額が普段の買い物とは桁が違うので、こうした過程がちゃんと紙に残っていれば、誤解した当人も素直に誤解を認めることができるというものです。でもメールにも全てが書き出されているわけではないので、久米さん、K建設の担当者、主人と私で鳩首凝議したことは、極力、別に私のノートにも絵付きでメモるようにしました。そうでもしなければ、その昔から数学でも3次元把握力に相当欠けていた私は話の内容についていけなかった面もありました。「家が出来上がってから、まあここはそうなっていたの?!とおっしゃる方もいますから」と久米さんに慰められたこともありましたが、事実、後でそういうことがちょこちょこあり、「なるほどね」と思ったものです。

 

 こうした作業を約1ヶ月も続けたでしょうか。でもいろいろなものを削ったからといって悔しいとか惨めになるとか、そういうことはありませんでした。(床面積を犠牲にして確保した)大きな吹き抜け、床暖房、ペアガラス、視線の抜ける広々感のあるお風呂、2階LDKの床遮音はしっかり等、これはキープしておきたいという項目は殆ど削ることなくコストダウンプランを練ることが出来たからだろうと思います。昨今の住宅ブームで、雑誌やTVに1,000万円台で(とは言え1,950万円だったり)建った家とかが登場したりしますが、1階と2階の床について音が筒抜けを我慢したりとか、断熱を半ば犠牲にしたりとか、間仕切り全然なしとか、私はちょっとついていけないものを感じますが、ともかく、相当の発想の転換か、思い切りのよさか、があった上の結果でしょう。自分の住に対する希望をはっきりさせておけば、要求も絞りやすく、そうすると「なくてもいいや」と思えることも結構たくさんあって、コストダウンがしやすいということですね。私達がどこまで譲歩できそうか、ということを少しずつ計りながら、久米さんはコストダウン案を出してくれたことと思います。


 でも反対のこともありました。久米さんが譲歩できなくて、私たちのほうが譲歩してもいい、ということもあったのです。3階天井吹き抜け部分の不燃性天井板は、久米さんがどうしても不燃性を主張し、「万が一火事になれば一緒じゃないの?」なんて思っていた私たちは安い方の普通の天井板でいいじゃないですかと言ったりしました。久米さんは良い意味で「怖がり」で、特に住宅の安全性に関して「怖がり」で、慎重でした。

 防水も必ず2重の備えを設計に入れていましたし、施主としては有り難い反面、そんなにしなくても、とコストの間で迷うこともありました。久米さんの意見をもちろん尊重したわけですが、その是非(有難味?)はこの家にこれから長く住んでいくうちにおいおいわかってくることでしょう。


 それぞれの家に対する思惑のずれから、結構揉めたようであっという間に過ぎたコストリダクション期間を終え、ようやくK建設と(特命で仕事はもらえると思い込んでいたこの会社は、見積もまあまあ良いものを出しているということで、結局、ここに施工をお願いすることになりました)、久米さん立会いの下、5月中旬に契約し、同時に地鎮祭を行うこととなりました。

 

久米から一言… 

 

…(今回もコメントしにくです…)

単に法規を守るだけでなく、建物は大切な財産ですから、デザインと共に、構造の安定や雨仕舞いなども、設計の段階でしっかりと検討しなければならないと私は考えています。

確かに私は「怖がり」なんですが…(笑)自覚しております。

 

その後のコメント) Kさんのときは、議事録を取ってお送りするということをしておりませんでしたが、その後現在は、必ず、ご契約後は打ち合わせ議事録を作成し、メール等でお送りし、内容をご確認いただいております。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

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