Kさんの家作り記録

NO.8

 

 棟上げが済んでからの最初の大きな問題はキッチンのことでした。K建設との契約からキッチン工事と床暖房は除き、別途個別に他の会社に頼むことにしていたのですが、幾度か下見と打ち合わせも行っていた独メーカーの代理店、G社が6月に入ってからこのアイランドキッチンはできないと言ってきたのです。一旦契約書まで作成していたので「今頃何を言い出すのか?」と驚き呆れましたが、ドイツの方が長い夏休みに入ってしまうからプランを今から変更しても竣工までに製作が間に合わない、とのこと。申し訳ないから他のキッチン施工会社を紹介するという誠意も見られませんでした。幸い「まだ大丈夫。十分間にあいますよ」と久米さんが言ってくれましたので、また気持ちを切り替え、最初に一度見積を取って断ったW工芸に再度見積をお願いし、今度は我家サイドで要望がかなりはっきりしていて値段の目安もついたので、久米さんと一緒にもう1社と較べた結果、8月のお盆前にW工芸に決めました。これに関してはK建設の工期が遅れていたのが幸いしました。


 2階をLDKワンルームにしてさらにソファは置かない、気の張る客人なんてまず来ないからフォーマルなスペースは不要、なるべく何もないすっきり空間を確保したいということは最初から思っていたのですが、いざ具体的になるとレンジを壁側にするかアイランド側にするか、それ次第でアイランドの大きさはどうなるか、レンジはガスかIHか等いろいろ迷いました。

 2階の床ができた頃、登らせてもらい、アイランドの大きさに線を引いて何とかキッチンの出来上がりを感覚的に掴もうとしてみたりもしましたが、北の窓からの六甲山系の眺めが予想外にいいことにうれしくなってそっちの方ばかり見とれたり、どうも努力は散漫に終わりがちでした。

 結局、わりと大きめのアイランドにレンジと流しの両方を置き、使い勝手とすっきり感を重視してIHにしました。壁側が収納と書斎コーナーだけになり、これまたすっきりして気に入りました。まあ、けがの功名というか、二転三転して迷った末の納得の決断というところでしょうか。「台所は奥様がこだわって手持ちの食器の寸法もすべて測りきっちり収納できるように…」なんていう文章を住宅雑誌等で見かける度に、そんなにきっちりできるものかしら?なんて思ってしまういい加減主婦ですので、なんとなく手持ち分の食器やらが納まりそうな収納スペースがまとまって取れたということで十分満足でした。


 そうそう、棟上げの時のいい思い出をひとつ。

 まず、友引の土曜日を選び(建築業界はかなり験担ぎの業界ですね)、幸いに晴天の下、あれよあれよ言う間に(見ているとそのように思えるのです)3階建ての鉄骨の組立が終わりました。1日でクレーン車の作業は終わらなければということだったし、細めの鉄骨ゆえに逃げがなくボルトの位置がきっちりいかなければやり直しになると、構造設計の下山さんも久米さんとともにチェックに来てくれました。現場監督のM氏が良く頑張った、100点だと下山さんが言ってくれた時には私もほんとうにうれしい思いがしました。久米さんもよかったといい笑顔でした。


 翌週ブレスがつけられ、作業用階段や足場が設置され保護カバーで全体がすっぽり覆われるといよいよ工事も本格的にスタートだ、とワクワクしました。でも素人の私が想像したようトントンと工事が進むわけではありませんでした。この頃は私のほうに仕事がなくて毎日家にいたため、棟上式を省略した替わりにせめて家に居る時はお茶ぐらい持っていこうとなるべく現場に通ったのですが、素人目には、遅々として進まず、のように見えました。勿論何事にも手順はあるわけで、風呂場の防水等、セメントを流した後は、3,4日は養生するとか、まあいろいろとあるようでした。1階と2階の床が出来、外壁のシポレックス貼り付けも何とか進み、8月中旬にはまたクレーン車が来て屋根工事が行われました。下地をつけ樋をつけ、と屋根だけで5日はかかると言われました。だんだん形になってくるとうれしくて、「これはどれぐらいかかるの?あれはどれぐらい?」ときっとしつこく現場監督さんに聞いたことでしょう。本人の自覚は全然ありませんでしたが。


 久米さんはK建設と毎週火曜日に定例会議を持ち、その結果もまたメールでこまめに連絡してくれました。最初から全てを施主に連絡するわけではなく、現場で判断してしまうこともありますからそれは了承してくださいと言われていましたので、私が知っている以外にもきっと大小いろいろな問題が常に起こっていたことと思います。そうしたことを処理しながら、事によっては施主に知らせて判断をしてもらうことを判断することも必要だったでしょうし、振り返ると建築士の仕事は大変だとしみじみ思います。


 とは言え、その時はそこまで思いやれる施主ではありませんでした。それどころか、問題が起こるたびに結構ごねたりもした、手の焼ける施主だったと反省しています。

 

久米から一言… 

 

ほんとに次から次からへと色々事件が起こりました…

 

今思い起こすとなんだか懐かしくもあるのですけど、キッチンがメーカー側から断られたときは本当に私もびっくりしました。K子さんのお家の場合は厨房設備のプランについては比較的長い時間を要し、その結果ようやく決まったメーカーだったのですが…(涙)

でも、結果的にはW工芸さんに仕事をして貰い、オリジナルの製作キッチンとなったので、

かえって内容的にも価格的にも、K子さんのご家族にはご納得いただけるものになったと思います。

 

本体工事のほうは前回の日記のコメントでも書いたとおり、進みは他の現場に比べてもやはり遅かったと感じています。でも、鉄骨のアンカーボルト(鉄骨と基礎のコンクリートを固定するボルト)の位置の精度は、K子さんの言われるように、私と監督が何度も一緒に現場で位置を修整した甲斐あって、許容範囲内(±3ミリ以内)に全て納めることができました。

 

その他、日記に書かれているように、建築主さんへの監理報告の仕方としては、現場の定例会議で特に建築主さんに意見を求める必要の無いと思える点については、私の判断で進め、その結果をまとめてご報告、という形をとっています。

勿論、建築主さんが報告の内容に疑義が生じれば、ご説明し、指示の変更の必要があれば変更しますが、K子さんのお家の場合は指示の変更をしなくてはならないことは何も無かったと思います。

監理は現場での定例会議以外にも、その都度必要のあるときは現場へ出かけ、また、私の事務所で打合せをしたり等、と多岐にわたります。

 

尚、最後に、「手の焼ける施主だった」だなんて書かれて、恐縮です。

こちらこそ、上手く建築主さんのお気持ちを汲み取れない部分があったのだろうと反省いたします…

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)