家づくり記録 Nさん

NO.7

2007.04.16

8.引越しまで

 
 なかなか記録が先に進まなかったことをお詫びします。 もう少し余裕のあるうちに手を付けておけば良かったのに、ぎりぎりにならないと動けない悪い癖が出て、先延ばしにするうちに、引越しやらなにやらが始まってしまい、さらに遅くなりました。結局未開封の段ボール箱にかこまれつつ、この記録を書くことになってしまいました。

 
 年末にあわただしく棟上を済ませ、のんびりとお正月を迎えるつもりでしたが、 (そう、マンンヨンの売買契約を結んだころは、1月には余裕で新居に入居できるはずたったのです) とりあえず仮住まいへの引越しをしなければなりません。 心躍る新居への入居ならまだしも、荷解きをしたらまたすぐに引越し、と思うとはかどりません。 捨てるつもりだった家財道具も、もう少し使わなければならないし。 これも新しい家に住むためのステップと自分に言い聞かせ、なんとか1月半ばに.すぐ近くの別のマンションに引っ越しました。 引越しはもう二度としたくない、と思うほどくたびれました。 期日までに引渡しを無事済ませ、ひとつの区切りはつきました。


 さて、肝心の家作りのほうは、着々と進んでいました。 とはいえ、仕事もあり、週に1度現場に顔を出せれば良い方たったので.具体的な進捗状況は、久米さんがメール してくださる、工事監理報告書で知ることがほとんどでした。 写真も添えてあり、その時々の工事のポイントがわかるので心強かったです。
 平日は現場にほとんど顔を出せないので、大工さんたちへのお茶だしができないのが気がかりでした。 休みの日に缶コーヒーの箱やお菓子を置いておき、現場へ行けるときはなるべく温かい差し入れをするようにしていました。 できる範囲でやるしかしようがないのですが、少し心苦しかったです。

 
 棟上のとき、人から「ここからが長いのよね。」と言われました。 確かに上棟があんなに早くできたので、これからもあっという間、と思っていたら、見た目には工事はなかなか進みません。 現場に行つても、邪魔を しては、と入り口から見えるところしか覗かったので、壁がだいぶできた、サッシが入った、という程度でしかわかりません。 久米さんのメールで、そうかここまで進んでいるのか、とやっとわかる感じでした。 1月、2月と幸いなことに天候にも恵まれ大きなトラブルもなく (私が知らないだけだったかも?)過ぎていきました。 久米さんいわく、T工務店のF現場監督は、これまで一緒に仕事をした中でも大変素晴らしい方、だとか。Fさんがいてくださるおかげで安心できました。 もちろん棟梁をはじめ大工さんたらも腕のよい方々ばかりで、よい仕事を してくださいました。

 
 設計のときにいろいろ決めたから、もう決めることはないだろうと思っていたら、またまだありました。 壁紙やふすま紙、外壁の色、タイルの色、カウンターの天板の色、便器や浴槽の色…。 もうこれしかない、とすんなり決まるものもあれば、壁紙などは選択肢が多すぎて迷いました。 壁紙をはる場所も多いので、最初はあれこれ考えていたのに後のほうはもうさっきのと同じのでいい、となってしまいました。 だから家の中にはなんだか凝っているところと、あっさりしているところとあります。 それはそれでいいのでしょう。

 
 照明器具は施主支給にしていたのでそろそろ発注しなければなりません。 ネットで見つけた会社数杜に見積りを頼み、一
番安い値段を出したところに頼みました。 家一軒分となるとものすごい数で、品番や数の間違いがないように久米さんからいただいたリストと何度も照らし合わせました。 工務店に届くようにしたので、無事着いたか心配でしたが、家にはちゃんと照明がついていました。

 
 問題は竣工の期日です。 仮住まいをいつまでに出るか、 1ケ月前には伝えなければなりません。 なんとか 3月中にと願いましたが、どうしても無理とのこと。 4月の初旬には引越しができるようにはする、ただし外溝などの工事は残ります、ということになりました。 引越しシーズンで都合のいい日に業者の空きがなかったものの、なぜか空いていた大安の日に引越しと決めました。
 それからは、果たしてその日に引越しができるのか、スリルとサスペンスの日々でした。 3月に入ってから工事はまさにラストスパートで、大工さんたちは夜遅くまで作業し、日曜日に現場をのぞくと必ず誰かがいる状態でした。 せかすようで申し訳なかったですが、引越しの日はもう譲れません。 相変わらずの差し入れを続けながら、お怪我のないように、お体を悪くしませんように、と折るような心境でした。

 
 引越しの 4日ほど前に、市役所の完了検査があり、同席しました。 といっても工事はまだまだ進行中で、キッチンは取り付け中、トイレやお風呂も未完成でした。 引越しはできるのか、と本当に不安になりました。 一生懸命作業されている中で、そんなことはいえませんでしたが。 検査に来た市役所の人が、いい材木を使っている、と感心していたのが印象に残っています。

  
 とうとう引越し当日を迎えました。 引越し業者とトラブルがあり、 1日ですむはずの引越しが 2日がかりになってしまいました、その上ソファの足も運搬中に壊され、本当に最後の最後に散々な日に会いました。 家作りのほうに直接関係ありませんが、引越し業者選びは慎重にすべきですね。

 
 そんな状態でも、やはり新しい家に入居できる喜びは、損なわれたわけではありません。 4日前の喧騒がうそのように、未完成だった箇所もきっちりしあがっていました。 図面では見えなかった、久米さんの設計の細やかな工夫が、やっと実感をもってわかりました。 照明の光の落ち方の妙や、空間のたたずまいにも個性があります。 もちろん収納などの使い勝手も計算されています。早く邪魔なダンボ-ルを片付けて、我が家の本来の姿に浸りものです。 いつになることやら。

 引越しは強行したものの、実は工事はまだ残っています。 外回りだけでなく、家の中にも、クローゼットの戸がなかったり、手すりがなかったり。 平日は留守にしているので、中の工事は土日に作業していただくことになります。
 
 久米さんと出会って、最初は夢のような話から、少しずつ具体化していって、時間はかかりましたが思い描いていた以上の家を建てることができました。 家作りにはいろいろな方法がありますが、普通は何度も経験できることではありません。 設計事務所で家を建てるというのは、なんだか大変そうなイメージがあります。 実際ハウスメーカーで建てていたら、しなくてもよかっただろう苦労はいっぱいありましたが、出来上がった家の満足感に比べれば取るに足りないものです。 多くの人にこの喜びを味わって欲しい、質のよい素敵な家が増えたらいいな、と願っています。

  
 正式の引渡しはまだ先で、引越しも進行中のような状況です。 が、我が家の家作り記録はここで一応終わらせていただきたいと思います。途中2度も長い中断をしてしまい、久米さんにはご迷惑をお掛けしました。 

  
 つたない文章を長い間ありがとうございました。

 

(竣工写真はこちら)

 

久米から一言… 

 

ようやくお引越ししていただけて、安堵しています。

上棟までに色々あって相当遅れたのですから、その遅れを縮めて竣工していただき、T工務店さんには感謝します。Nさんもそれをご理解いただいているので、遅れをご勘弁いただけたと思っています。Nさま、暖かいお気持ちで見守ってくださってありがとうございました。

 

さて、本日の時点では、残工事も殆ど終わり、あと少しで完全に引渡しです。

本来は引渡ししないうちにお引越しいただくことはしませんが、今回は、

NさまとT工務店さん、双方が互いに十分にご信頼されていたために心配なく行えました。

良い工務店さんと出会うと、設計以上に良い建物になります。

監督さんの常に前向きな検討と大工さんの巧い仕事があるからです。

ここはそういう現場の一つだと思います。

 

後日、お住まいになったご感想もいただけるとか…

きっとそのころは、竣工の写真も少し、皆さんに見ていただけることでしょう。

Nさま、本当にご多忙の中、長い連載に時間を割いていただいたこと、心から感謝申し上げます。 有難うございました。

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

 (記事はこちら)

 GeekanNZ のウエブサイトはこちら

 

- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

 (記事はこちら)