家つくり記録 Hさん

第3回

 

家の形が決まり、いよいよS工務店から本体工事に係る見積書を頂く日が決まりました。

 

「この日はドキドキですね」と、久米さんらしからぬ何とも言えないコメントを頂き、期待と不安を感じつつ当日を待つことになりました。ところが、当初決めていた見積り提示予定日が、一週間後に変更になりました。

 

S工務店側で、頑張った見積りの作成に必要以上に時間を要しているのだろうと前向きに考え、当日を待つことにしました。

 

後日分かった事ですが、実は、久米さんが工務店からの見積書に事前に目を通し、見積りの精査と、予算に近づけるための大幅な値引き交渉をS工務店と行っていたため、その修正に時間を要し、提示予定日が一週間延びたのでした。

 

この事前の大幅値引き交渉が無ければ、以降の打ち合わせはスムーズに進まなかったと思います。当初の見積り金額だと予算を遥かにオーバーし、私達は不安に駆られ、S工務店との特命契約(特命契約予定の一社見積)に関し後悔した事と思います。

 

私達は事前にその様なやり取りがあった事を知る由も無く当日を迎え、久米さんの事務所をお伺いしました。早速S工務店から見積り金額の提示と、詳細な説明を受けました。

その金額はとても妥当で納得いくものでしたが、残念ながら私達の予算をオーバーしています。

予算オーバーの原因として、土地の地盤が意外にも軟弱で、大掛かりな地盤改良工事が必要になったことが上げられます。この工事費用を家づくりの予算に組み込んでいなかったのです。

 

購入した土地は山を切り崩した場所であったため、比較的地盤は良いだろうとの思い込みから思わぬ出費となりました。多少費用は掛かりますが、購入前の地盤調査の必要性を痛感しました。

しかしながら、土地は気に入っており、しっかりと地盤改良した土地の上に住まうことは、安心して暮らせる事だと開き直る事とし、自分を納得させこの日を迎えました。

 

ここから、久米さんとS工務店による熾烈な減額交渉が始まりました。S工務店がぎりぎりの見積りを出しているのは納得できるので、あとは私達が何を諦めるか見極めが必要になってきました。

この日は長丁場が予想されましたので、子供達を自宅に留守番させてきた事は正解でした。

 

久米さんは、分厚い見積書の項目一つ一つに目を皿のように吟味し、少しでも削れるところは無いか身を乗り出す勢いです。S工務店も更なる減額案を前もって考えてくれていましたが、それでも私達の予算の壁が大きく立ちはだかっています。自然な形で減額できる部分はないか、一から見直すことになりました。久米さんとS工務店社長とが直談判するような形で減額会議が進んでいきました。もちろん私達夫婦も一緒に参加しているのですが、減額された項目をメモするのが精一杯でした。

 

久米さんの熱意にS工務店の社長も圧倒されたのか、それとも私達の悲壮感が伝わったのか、想像を絶する減額の提示を頂き、久米さんもこんなに減額していただけるのは凄いです!!との金額に落ち着きました。つくづくS工務店にお願いして良かったと思いました。

 

私達もやみくもに見積り金額の減額をお願いするだけでは問題は解決しないと考え、こだわりのお風呂の形状を通常のユニットバスに変更しました。ハーフユニットバスの上を板張りで囲い、狭いながらもベランダに出られる仕様になっていましたが残念ながら断念しました。

 

構造材も九州からの運搬費等も考慮し、小国杉から米松に変更することとしました。又、S工務店からの提案で、ウッドデッキの塗料は私達家族で塗ることにしました。子供達を家づくりに参加させてみたかったので、これは楽しみです。

 

長丁場の打ち合わせも無事完了し、その減額案で再度S工務店から見積りを頂戴する運びとなりました。久米さんの交渉力と、会社の利益を考えない?S工務店の大胆な減額のおかげで、建物本体工事費用は当初頂いた概算見積金額を下回るものとなりました。

 

ところで、建物本体と同様、キッチンについても嬉しい事がありました。

キッチンについては特にこだわりがありましたので、当初から建物本体工事とは切り離し、いろいろと提案をいただいていました。

私達も勉強のため、キッチンメーカーのショールームを何社か回り、その感想を報告させてもらっていました。久米さん側からは、憧れの輸入キッチンを取り扱うC社の見積を頂戴していました。

正直、キッチンはそんなに高いものではないと漠然と考えていましたが、実際高いもので(当たり前ですが)、地盤改良費用追加もあり正直まいったなぁと落胆しておりました。

妻は雑誌の切抜きを眺めながら、自分の理想のキッチンに夢膨らませていましたが、現実には手が届きそうにもありません。

結局、「キッチンに住む」をテーマにしている国内メーカーに焦点を絞り、そのショールームを2度訪問し詳しい説明を受け、ここで落ち着こうかと考えていました。

 

そのような中、久米さんから輸入キッチンを取り扱うC社にご一緒しませんかとお誘いを受けました。

正直輸入キッチンは諦めていたのでC社との契約は絶対有り得ないと思いながらも、目の肥やしになればとC社を訪れました。

 

やはり輸入キッチンはどれも素晴らしく私達はため息ばかりです。C社会長からとっておきの掘り出し物があるとのことで見積を頂いたのですが、やはり私達には手が届きません。キッチンに詳しい方であればすぐに飛びつく金額(久米さんは金額にびっくりされていました)だと思いますが、私達サラリーマン世帯にはやはり高嶺の花。

 

金額に飛びつくことも無くため息をついている私達夫婦を見て、C社会長はあっけにとられたのかコーヒーをこぼされる程驚いていましたが、私達はキッチンに対する予算をその場に臆せずはっきりとC社の会長と社長に伝えました。

C社社長は私達の身の程を感じとったのか、「何とか予算内で提案出来る様、在庫品があればそれを活用し頑張ってみます」との心強い言葉を頂きました。しかし、妻は有り得ないと諦めモードのままでした。

一週間後予想に反し、C社からグレードを落とすことなく私達の予算金額同額でキッチンの見積書が届きましたと連絡が入りました。

妻はすでに諦めモードでしたので、夫婦そろってガッツポーズ!!

キッチンも久米さんのお力添えで、私達の理想を遥かに超える輸入キッチンを導入することとなりました。妻はひそかにドイツ製のキッチンに憧れ雑誌の切抜きを持っていましたが、当初から購入することは予想もしていなかったので、同社のキッチンが手に入ることなり夢心地です。

 

ここまでいろいろありましたが、関わっていただいた皆様方のお力添えで、久米さん立会いの元、S工務店と無事、8月5日に工事請負契約を締結することが出来ました。

契約当日の帰り道、土地の氏神様に地鎮祭の申し込みを行いました。いよいよ更地の土地が動き出します。次回は地鎮祭の様子から報告させて頂く予定です。

 

 

久米から一言…

見積をHさんに見ていただく前には、私は別に値引きの交渉は

さほどはしていないのですが(笑)

ただ、見積の間違いがないかどうか、また

良かれと思った提案を含むような余分な見積が入っていないかどうか、

は、必ずいつもチェックしています。

工務店さんからの見積上がりが少し遅れたのでチェックの時間が取れなかった、

ということでした。

しかし、Hさんも書かれているとおり、最終的に社長(会長)が決断してくださった値引は

これまで私も経験したことの無いほどのもので、

とても緊張するものとなりました。 というのも、

請負金額に余裕が全くない状態なので、何かあればわずかなことでもすぐに追加、

となってしまうため、後戻りも無く上手にやっていかねばならないと感じたからです。

しかし、もちろん、この「値引き」というのは

むやみに利益を削ったものではありません。

工務店さんの知恵で、リサイクル品や端材を無駄なく使うとか、

手間を減らすために、建材の加工を工務店の社内で済ませて現場搬入するとか、

そのような様々な工夫です。

そのご努力には本当に頭が下がる思いでした。

 

また、キッチンのほうも、これも私自身驚くような価格提示でしたが、

実は、在庫処分品でなにかお好みに合う適当なものがないかどうか、

社長が倉庫に飛んで、探してくださったのです。

それをうまく利用しながら、天板などはオーダーで仕上ることとなったため、

本当に破格値の厨房設備となりました。

 

地盤の件で、一度は建物が建つのだろうかと思えるほどでしたが、

Hさんのご辛抱に加え、関係者皆さまの工夫とお力で実現できることを、

心から有難く思っています。

 

こういうところが、やはり、

工場生産品でない、人の手による建築だとつくづく感じるところです。

今回もまた、人と人との繋がりがあってこそ生まれる、

暖かい建物となるはずです。

 

 

 

 

 

- GekkanNZ 誌 2018年7月号より
  「建築探訪」連載中です。

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- 一般社団法人海外建設協会(OCAJI)

  会報誌 海外生活だより に寄稿させ

  ていただきました。

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